『失われた貌』


周到に張られた伏線。

閃きを導く手がかり。

最後に裏返る真実。

本を閉じた後に意味合いを変えるタイトル。

ミステリに求めるすべてがここにある。

これぞ、至高!

『蝉かえる』で日本推理作家協会賞、本格ミステリ大賞をW受賞した新鋭の書き下ろし最新刊は、初の長編にして、警察もの!


『「羽幌さん、読んでくれたの?」
「読んだ。びっくりしたよ」
「授業で書いた詩を杏子先生にみせたら、新聞に送ってみたらって、いってくれたの」
顔を赤らめながら、信じがたい角度に紙コップを傾けてコーラを飲む少年の小さな仏が、生意気に上下した。』

この小学生らしい描写がとても好きです。

子どもって「信じがたい角度」にコップを傾けたりしますよね。

そういう細やかな観察があちこちに感じられて、いい作家さんだなあと思いながら拝読しました。


『「あの弁護士さん、ずいぶんたくさんの持論があるみたいですけど、どこかに矛盾は生じないのかしら」
「矛盾こそ彼らの武器ですよ。まっすぐ走ることしか知らない警察とはちがいます」』

登場する弁護士のキャラクターもよかった。

個性がたっているのだけれど、リアリティも感じられて。

エンタメ小説のようでありながら、その境界を飛び越えないバランス感覚の良さを感じました。


『前回は合わせなかったグラスを、今日は打ち鳴らす。
「美味いな。さすがだ」
「そりゃどうも。励みになるよ。今日は月がみえたかい?」
「みてないな。すっかり欠けたのかもしれない」
「欠けきったら、あとは満ちてくだけさ」
「そしてまた欠ける」
「そりゃそうだ。満たされてばかりの人生はないし、ただ失うだけの人生もない」
「マスター、いつから人生の話になったんだ?」
グラスを空にすると、マスターが「もう少し飲んでいくか?」と誘ってくれたが、日野は二枚の札をカウンターに残し、宣言どおり一杯だけで店をでた。
同じ過ちは繰り返さない。
それもまたプロの条件だろう。』

バーが出てくるんですよ。

良いですね、警察小説に登場してほしい、バー。

ここのマスターもまた曲者で。

バーのマスターとしての矜恃を貫いた上で、捜査のヒントとなる情報を出したり、出さなかったり。

あくまで美味しいお酒を出すプロとしてそこにいる感じがとてもかっこいい。


『「伝えておきますよ。きっと喜ぶ」
「何度もいってるの。でも、わたしの言葉は、あんまり心に響かないみたい」
「あの胸板の厚さですからね」上村は手を叩いて笑ってくれた。』

各章の終わり方が、笑いを誘うものであったり、痺れるセリフであったり。

櫻田智也さんの知的な言葉選びにきゅんとし続けました。


読み終えてから表紙を見ると、また改めて感じるものがあったり・・・。

さすがミステリー三冠。

10万部突破作品。

ほかの作品も拝読したいと思います。


紋佳🐻

読書