『高崎山のベンツ』


1000匹以上の野生のニホンザルが暮らすサルの王国・高崎山。

ここに、2つの群れのボスになり、800匹の群れをたった1匹でけちらしたオスザルがいました。

その名は「ベンツ」。

ベンツはどのように育ち、どんな一生を送ったのでしょうか。

かれの手に汗をにぎる活躍とともに、わたしたちにとって身近な野生動物であるニホンザルの生活がわかるノンフィクションです。


「ボスザル」の生態がよくわかり、また個体によって性格がさまざまであるのが、読んでいて大変興味深かったです。

『子ザルにはめっぽう優しく、森の中で母親とはぐれた赤ちゃんザルを保護することもありました。
残念ながら、オスザルは母乳をあげられないので赤ちゃんの母親代わりを務めてあげることはできないのですが、ドラゴンは見すてることができなかったのでしょう。
か弱い赤ちゃんザルを守ろうとして、寄せ場にいるあいだ、えさも食べずに腕にだきつづけていました。
自分の食べものよりも安全よりも、仲間の安全が優先。係の人が柵の中に立ちいるだけでも威嚇してきたといいます。
係の人たちは「あんなに責任感の強いボスはほかにいない」と口をそろえていいます。
ドラゴンは「片腕のボス」として注目を集めただけでなく、人間から見ても魅力的なボスザルだったので、ドラゴン目当てで高崎山を訪れる人もたくさんいました。』

人間からも尊敬されるようなボスザルもいれば―

『しかし、高崎山の歴代のボスザルがみんな、ジュピターやドラゴンのような立派なリーダーだったわけではありません。
これまでのボスには、群れの仲間に優しいのはいいけれど、ほかの群れとの争いが起きてもさっぱり前に出てこないボスザルや、群れの中でもめごとが起きたときに、それを仲裁するどころか弱い者いじめに加わったりするボスザル、ストレスに弱く、ささいなことでカッとなりやすくて人や順位が下のサルに応つ当たりばかりするボスザルなど、けっこう情けないボスザルもたくさんいました。』

いろんなボスが存在するというのは、人間社会とまるで変わらない。

そんな野生の猿たちの個性やドラマに、お客さんが集まる文化があるということを、初めて知りました。


また、ニホンザルのメスたちの話もおもしろい。

『ニホンザルの世界では、若いメスはモテません。
なぜなら、出産にも子育てにもなれていないので、せっかくの赤ちゃんを無事に育てきれないことがあるからです。
その点、年長のメスはそれまでに何匹もの赤ちゃんを育ててきていますから、ベテランママとして次の赤ちゃんもしっかり育てあげてくれるでしょう。年がいっているメスがモテるのはそういうわけです。』

『一番地位の高いメスは「メスガシラ」とか「婦人会長」と呼ばれます。メスガシラには、ボスをはじめ、上位のオスたちも一目おいていますので、力の強いオスに対しても遠慮なくふるまうことが多く、きっと、そのせいでサイジョーともめたのでしょう。』

年長のメスの方が、若いメスよりもモテる。

1番地位の高いメスはボスにも遠慮なく振る舞える。

へぇ〜!の連続でした。


数々の伝説を生み、波乱万丈な人生を歩んだベンツ。

お猿さんの生態も、ベンツのことも、何も知らなかった私でしたが、江口絵理さんのうつくしくわかりやすい文章により、内容がすうっと入ってくる体験ができました。

やはり江口さんの文章、好きです。

癒されました。


紋佳🐻

読書