『叛逆航路』


史上初、デビュー長編にして星雲賞、ヒューゴー賞、ネビュラ賞など全世界9冠制覇!

本格宇宙SFのニュー・スタンダード登場!

はるかな未来。

強大な専制国家ラドチは人類宇宙を侵略・併呑して版図を広げていた。

その主力となるのは宇宙艦隊と、艦のAI人格を数千人の肉体に転写して共有する生体兵器“属躰(アンシラリー)”である。

“わたし”は宇宙戦艦のAIだったが、最後の任務で裏切りに遭い、艦も大切な人も失ってしまう。

ただ一人の属躰となって生き延びた“わたし”は復讐を誓い、極寒の辺境惑星に降り立つ―


友人から薦められ、拝読。

重厚なSF小説でした。


『シャツの迷路のような模様から推測するに、彼女はたぶん男だろう。ただ、確信はなかった。
ラドチでは、そんなことはどうでもいいのだ。
わたしの第一言語にジェンダーの区別はない。
しかしこの地域はそうではなく、わたしが文法の性を間違えば、何介なことになりかねなかった。
性を見分ける手がかりは地域によって、それもときに大きく異なり、わたしの理解の範囲を超えていた。』

『オルス語では、大人より子どものほうが話しかけやすい。性別の区別がない単純な表現でかまわないからだ。』

ひとつの大きな作品の中で、異なる言語圏(しかも現実に存在しない言語)をここまで丁寧に描ききっているのがまず素晴らしい。

言語学的観点から読んでも、とても興味深い作品でした。


『わたしが"わたし”というとき、そこに曖味なものはないように見える。<トーレンの正義>であり、これは艦船そのものと属躰すべてを意味していた。
属躰は各自、各任務を遂行するが、かといってわたしは各自、各任務に意識を集中しなくてもよい。
しかしそれでも個々の属躰は切り離されることなく、つねに”わたし”なのだ。
そして十九年後のいま、”わたし”はたったひとつの肉体、たったひとつの脳でしかない。』

この文章・世界観に慣れるまで、多少の時間がかかりましたが、(いま自分はSF小説を読んでいるぞ!)というきもちがこんなに体験できる作品もなかなか普段味わうことがなかったなあと。

一人(とあえて表現)のAIが、何十というからだを持ち、同時に存在する世界。

一人称の『わたし』や、三人称『彼女』が、まずどの人物をさすのか、また人物が特定できたところで、「その中の誰なのか」をよく考えながら読み進める必要があって、難解でした。

読み進めることで明らかになり、答え合わせをしながら理解が深まっていく感覚も、この作品ならではの面白さでした。


巻末には用語解説と年表も。

緻密に構築された設定が、作品の魅力を支えていることがよく分かります。


オススメしてくれたM氏に感謝して。

これは、ひとりでは出会えなかった本だわ。


紋佳🐻

読書