『あなたが正しくいられたとき』


どんでん返し×驚愕の心理トリック!

そのときあなたの“正義“が揺さぶられる。

『嘘と隣人』が直木賞候補、『夜の道標』で日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞した芦沢央さんの最新短編集。

日常に潜む人間の心の歪みや、「正しさ」が孕む危うさを鋭く描き出した6編を収録。

どの物語も、登場人物が信じる「正しさ」が思わぬ悲劇や皮肉な結末を呼び起こし、人間の心理を深くえぐる筆致に、価値観が激しく揺さぶられます。


短編集ということで、さまざまな媒体で掲載された作品をまとめた本。

ご本人曰く「ごった煮」だそうですが、どれも本当に素晴らしかった。

特に『投了図』が好きでした。

コロナ禍中どれだけ多くの人が、同じような思いをしたのだろうと胸が苦しくなる内容でありながら、将棋の世界をうつくしく描かれていて、それがまた最高でした。


『「じゃあ、あなたはこの子の方が勝つってわかっていたの?」
「まあ、確信したのは国芳九段がマスクを着けたときだけどな」
夫は画面に向いたまま言った。
「マスク?」
「このご時世、マスクを着けないで近距離の相手にしゃべっている姿が流れるのはよろしくないだろ。マスクを着けるってことは声を出そうとしているーつまり投了を告げるつもりなんだろうと」
ふと見ると、青年の方もマスクを着けるところだった。(略)
「投了水とかいう言葉もあるくらいだ」
「投了水?」
「投了する前に水を一口飲むんだよ。お茶の場合もあるけど、他にも羽織を直したり背筋を正したり、棋士には投了直前の所作ってものがあるんだ」
投了は、ただゲームに負けることとは違うんだよ、と夫は続けた。
「人生のほとんどすべてを将棋に費やして、一手一手、最善を信じて積み重ねていくんだ。投了は、自分が間違えて、積み上げてきたものを台無しにしてしまったことを、自ら受け入れる行為なんだよ」』

将棋はまったく知らないのだけれど、この話には深く深く感動しました。

「まいりました」のひと言に、どれほどのドラマがあるのか。


思えばスポーツの殆どは、決着が「数」でつく。

時間内に、得点が。

ゴールまでの、時間が。

ライバルたちと比較して、距離が。

将棋・囲碁・チェス―

自ら決着(しかも己の負け)を認めて試合を終えるなんて、改めて考えるとすごい競技ですね。

その負け際にも、こんな美学が。

『「もう詰んでいるとわかっても、棋士はすぐには投了しない。かと言って、最後の詰みまで指すこともしない。その棋譜にとって最も相応しい投了図を作り上げてから幕を引く。投げ場を求める美学があるんだ」』

初めて知った、「投了図」という言葉。

つい最近、「俳優を辞めて地元へ帰る」という方の、最後の自主公演を拝見したのですが、まさに美しい「投了図」だったと思います。

最後まで闘い抜いて、勝負から降りる。

その終わり方にも美しさがあるのだと知って、将棋にとても詳しい人が羨ましくなりました(「なんと見事な投了図だ!」と感動できるのが羨ましい)。

またこの『投了図』というタイトルのおわり方も大変良いのです。

主人公の闘いの終わらせ方が、良い。

その「負け」は決して、ただの「負け」ではない。

今作の最後に持ってきたのも納得の余韻でございました。


読むたびに(芦沢央さん・・・好き!)と新鮮にときめくことにいい加減慣れなさい私、と思うくらいには、そろそろ本腰を入れてご著書を読み漁るべきだなと思いました。

芦沢央さん・・・好き!


#あなたが正しくいられたとき

#芦沢央


紋佳🐻

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