『ありか』


母親との関係に悩みながらも、一人娘のひかりを慈しみ育てる、シングルマザーの美空。

義弟で同性のことが好きな颯斗は、兄と美空が離婚した後も、何かと二人の世話を焼こうとするがー。

「子育てをしながら自分が受けた恩を思い知って、親に感謝していくのだと思っていた。それが親になった途端、さっぱりわからなくなった。この日々のどこに恩を感じさせるべきところがあるのだろう」
(本文より)


子育て中の母親、特にシングルマザーが抱える孤独とプレッシャーが、非常に丁寧に描かれていました。


『ひかりと二人だと、ひかりの視線も声もすべてが私に向けられて、それはうれしいことでもあるけれど、いつ息を抜けばいいのかわからなくなることもある。
こうして、ほかの人が入ることで、少し自分の前に隙間ができて、ごはんも味わって食べられる。』

子どもは可愛い、けれど、常に子どもに向き合い続けることによって蓄積される疲弊。

贅沢はできない、けれど我が子のささやかな願いは叶えてあげたいという親心。

体力的・経済的観点から生じる親の葛藤が、とてもリアルでした。

「子どもを愛していること」と「子育てに疲れること」、
「子のために節約すること」と「子のためにお金を使うこと」は、決して矛盾しないのだと、改めて考えさせられます。


物語の中で大きな存在となるのが、主人公の母親。

幼い子どもがいる娘の事情を顧みず、夜中でも構わず訪ねてきては自身の不満を一方的に吐き出し、最終的に金を無心する。

「なんのために私はあんたを育ててきたんだろうね」
「いつまで私に無理させる気なの?死んでもいいんだね」

といった言葉で娘を追いつめる様子には、強い抵抗感を覚えました。

と同時に、なかなか母親との関係を断ち切れない主人公の優柔不断さに、もどかしさや怒りも覚えながら。


ただ、母親を単純な「悪者」として描いて終わらない。

それぞれの登場人物が抱えてきた事情や感情に目を向けつつ、
「母親もひとりの人間である」という視点で救おうとするところは、大変瀬尾さんらしい着地点でした。

個人的には、もう少し厳しい現実に踏み込んだ結末でもよかったのではとも感じつつ(意見には個人差があります)。


子どもへの愛情は、ときに親自身を疲れさせたり、追い詰めたりもする。

それでも、愛情と矛盾するように悩み、葛藤を抱くことこそが尊い営みである。

ということを、自分自身の子どもたちへの気持ちと重ねながら、静かに噛みしめて読了。


津田健次郎さんが帯文を書かれていて驚いた。

さすがだ・・・仕事の幅がひろい。


#ありか

#瀬尾まいこ


紋佳🐻

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