『殺人犯はそこにいる』
5人の少女が姿を消した。
群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。
同一犯による連続事件ではないのか?
なぜ「足利事件」だけが“解決済み”なのか?
執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す―。
新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞。
日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。

ノンフィクションのルポ作品なんだけど、文才が溢れていて、まるで「小説」を読んでいるような錯覚に陥りました。
『「実は、報道特番をやりたいんですよ」
私は鮨から手を引いた。腕を組んだ。天井を仰いだ。
「ほお・・・・・・そうですか」
口ばかりの返事が鮨屋の静かな空気の中を漂っていく。
大きな目をキラキラさせて語り出した部長の言葉は熱気に満ち、やがて明らかになった構想は壮大なものだった。
テーマを決めて一年間報道する。
しかもその結果“日本を動かす”のだという。
やられた。
これはミッションではないか。(略)
私は冷静を装いながら目を回す。
しかも、“日本を動かす”と来た。
そんなスケールの大きな仕事が週刊誌上がりだか週刊誌崩れだかのチンピラ記者にできるとは到底思えなかった。
だが・・・・・・すでに鮨の大半は胃袋の中だ。
今からカッパ巻きだけでも返したら勘弁してはもらえないものか。』
もう導入から惹き込まれました。
エッセイっぽくもあるし、警察小説のようでもある。
『それにしても、なぜここまで悪質な男が死刑でなく無期懲役なのか。
過去の事件でも犯行を自供しているのに。
それは「一事不再理」という原則があるからだ。
刑事事件では同一事件で確定判決がある以上、二度と審理をすることはできない。
よって、小野悦男の過去の事件の真相は今も闇の中だ。
弁護士や冤罪支援者達にとって何とも後味の悪い事件だったろう。
冤罪の疑いを報じたマスコミにしても、この苦い経験は忘れえぬものになったのではないか。
こうしたさまざまな障壁が冤罪報道にはつきまとうわけだが、私にとっての「ハードル」は少々違った。』
なぜ「冤罪」を追及することのハードルが高いのか。
過去の実例や、国・報道機関の構造など、さまざまな視点からその難しさや責任の所在について綴られており、とても腑に落ちました。
取調室の様子は、ノンフィクションである事を信じたくなくなるような、思わず目を逸らしたくなる描写でした。
『冷え込む取り調べ室で裸にされ、うしろ手錠で正座させられ、警棒で脇腹やアゴを突かれた。
刑事達は酒を燗につけて飲んでいたという。
「なめるなよ。戦争に負けても、俺達は天皇陛下から拝命した響察官だ」と刑事達(略)
「お前は初犯なのだから、事件を認めれば執行猶予で釈放されるぞ」と、とんでもない嘘。
法律の知識がなかった免田さんに選択肢などなかった。
ついに自供「させられ」る。』
死刑判決を言い渡されてから、34年もの間、冤罪によって不自由の身にあった免田栄さん。
無実が証明され、逮捕現場である杉山へ戻ったとき、当時、伐採と同時に植林されていた苗木は、34年という時を経て大木へと成長していた。
その木を見上げる免田さんの写真に、言葉を失いました。
「飯塚事件」「桶川事件」「足利事件」「免田事件」―。
当時まだ生まれていなかったり、子どもだったりした自分にとって、ほとんど知らなかった事件について、詳しく知ることができました。
メディアによる過剰な扇動はもちろん問題だと思う一方で、世論が動かなければ、警察・検察・裁判所といった大きな組織もなかなか動かないという現実。
記者という立場から、世論を味方につけながら大きな組織に食らいついていく清水さんの、徹底した調査報道。
その姿勢に、とても励まされました。
『人は誰でもミスをする。
私だってもちろんそうだ。
誤りは正せばよい。
原因を突き止め、再発を防止することに全力を尽くせばいい。
だが、隠蔽しては是正できない。
過ちが繰り返されるだけだ。』
ジャーナリズムに希望の光を感じると同時に、
絶対的なものと思われがちなDNA鑑定の危うさについても、改めて思い知らされる一冊でした。
#殺人犯はそこにいる
#隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
#清水潔
紋佳🐻










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