『清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?』


あらゆるものを等しい目線で素描する。

清少納言が『枕草子』で描いた「すばる」は現在のわたしたちが観測するものと同じみえ方をしていたのか?
クレオパトラはなぜ真珠を飲めたのか?
古代中国のブランコはどのようにして動いていたのか?

科学者の目で古今東西の文章を渉猟する、サイエンス・エッセイ。

2001年に出版された『天文学と文学のあいだ』を最新の知見に合わせて改稿、書き下ろしの章も加え、新たにリリース!


『清少納言の『枕草子』の有名な一説「星は すばる」にあるように、日本では「すばる」は昔から使われてきた星の名前で、大和言葉である(従って、カタカナで書くべきではない)。
星が「統ばる」、つまり多く集まっているという意味である。』

和歌や短歌、古典を引用して、言葉について改めて学ぶ時間は、豊かな時間でした。


織姫と彦星の物語について、中国と日本で、古い文献の内容が少し異なるのが興味深かった。

日本は「彦星が織姫に会いに行く」のに対して、中国は「織姫が彦星に会いに行く」という、積極的な女性が主人公。

こういう違い、面白いですよね。

で、さらに面白いのが、「じゃあ日本の織姫はお淑やかな大和撫子なのか」というと、
柿本人麻呂の歌では、
「約束の逢瀬の日が来たのだから、早く来なさいよ」
と、ぐずぐずしている彦星を織姫がせきたてている歌があって、それに対して彦星が、
「去年来たきりなので、川筋が違って遅れてしまった」と言い訳をしている。

・・・日本の女性も負けじと強かった!笑


そんな、文学的・歴史的なエピソードの後にくるのは理系的エピソード。

例えば、

『さて、日本では「ゆふづつ」と呼ばれた金星は、中国名で「太白星」であり、ギリシャ名が「ヴィーナス」であるように、白く明るく輝く美しい星である。
金星が白く輝くのは、七〇気圧を超える大気に厚く包まれており、太陽の光の八〇パーセント以上を反射するためだ。この大気はほとんど二酸化炭素でできており、その温室効果のために金星表面では、摂氏四〇〇度を超える熱地獄となっている。』

なぜ「いとをかし」なのか、科学的に説明してもらえる。

これ程「リベラルアーツ」を体感できる本は、なかなか無いのでは。


『人間は、真っ暗闇の中で暮らすと、ほぼ二五時間周期で生理的な変化が起こることが実験でわかっている。体内のリズムを整える機構が備わっているためだ。これを「体内時計」と呼んでいる。(略)
なぜ、人間の体内時計が二五時間で、地球自転の一日二四時間周期になっていないのかは、まだよくわかっていない。一日の周期と体内時計がピタッと合っていれば、機械的に毎日の行動を起こすことになり、かえって人類へと進化できなかったのかもしれない。(略)
朝起きたときに体は一時間分だけ不足分を取り戻そうと激しく生理活動をし、それが刺激になって人間の脳が大きくなった可能性がある。』

体内時計って25時間周期だったんですかー!

通りで毎朝毎朝、眠いわけですね(違)。


古典や歴史・文化といった文系的知識と、理系的知識が、縦糸と横糸で織られた、美しい布のような。
池内さんにしか書けない文章・構成でした。

知識欲が刺激される、良書です。


紋佳🐻

読書