『リカバリー・カバヒコ』


5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。

近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。

アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。

高校入学と同時に家族で越してきた奏斗は、急な成績不振に自信をなくしている。

偶然立ち寄った日の出公園でクラスメイトの雫田さんに遭遇し、カバヒコの伝説を聞いた奏斗は「頭脳回復」を願ってカバヒコの頭を撫でる―(第1話「奏斗の頭」)

出産を機に仕事をやめた紗羽は、ママ友たちになじめず孤立気味。

アパレルの接客業をしていた頃は表彰されたこともあったほどなのに、うまく言葉が出てこない。カバヒコの伝説を聞き、口を撫でにいくと―(第3話「紗羽の口」)

誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。


やっと、読めました!

ずっと読みたかったし、読んでしまうのが勿体なくて読めなかった。


「でもどう見えるのかって結局、目というより脳の判断らしいですよ」

「脳?」

「たとえば、網戸の向こうのベランダにバケツがあるとするじゃないですか。バケツを見ようとすると、そっちにピントが合って、目の前の網戸が消えるんですよね。で、網戸を見ようとすれば細かい格子が現れる。そうするとバケツは、視界というか、極端な話、頭からいなくなる。人間って結局、見たいものだけ見たいようにできてるんですよ」

「ほんとに、身勝手だよなぁ」

「それでいいんじゃないですか。何が大事で必要か、そのつど選択しながら生きているってことでしょ。なにもかも全部はっきり見てやろうなんて、そのほうが傲慢ですよ」

くぅ、刺さります!

好き。

寂れた公園で、ボロボロに放置されたアニマルライド―を舞台に、こんなにも優しくて温かい物語を紡げる青山さんの感性が、尊いと思うのでした。


「ひとは、見たいものを、見ようとしているものを見ているだけ。」

「過去は変えられない。一度経験した記憶はけせない。それでも、良い方に向かうことはできる。」

「何もかも変える必要はない。アレンジすればいい。」

小学生、高校生、小さい子どものいる親、年老いた親と向き合う熟年夫婦・・・

誰が読んでも共感できる人物がきっといる。

それが、青山さんの作品の素晴らしいところの一つ。

疲れ気味のひと、悲しいことがあったひと・・・傷つきやすいすべての人に、届きますように。


紋佳🐻

読書