『空が青いから白をえらんだのです』


受刑者たちが、そっと心の奥にしまっていた葛藤、悔恨、優しさ・・・。

童話作家に導かれ、彼らの閉ざされた思いが「言葉」となって溢れ出た時、奇跡のような詩が生まれた。

美しい煉瓦建築の奈良少年刑務所の中で、受刑者が魔法にかかったように変わって行く。

彼らは、一度も耕されたことのない荒地だった─

「刑務所の教室」で受刑者に寄り添い続ける作家が選んだ、感動の57編。


奈良少年刑務所で、月に一度(1期は半年、全6回)、詩の授業を受け持つ寮美千子さんのご著書。

『詩の教室の受講生の多くは、世間から落ちこぼれてしまった子。なかには、家庭で育児放棄され、学校でも先生から相手にしてもらえなかった者もいます。

食べるものも与えられず、緊急避難的に万引きなどをして、それが常習化して刑務所に、というケースも。

犯罪者の多くは、そんな社会的弱者です。』

テレビのニュースばかりを見ていると、犯罪者といえば、凶悪な悪人ばかりを想像してしまうけれど。

「犯罪者の多くは、そんな社会的弱者です。」

という言葉に、ハッとさせられました。


『ぼくのゆめは・・・・・・・・・・・・』

という詩を書いたFくんは、重い罪を犯して長い懲役で服役中。

ぽつりぽつりと語り出した夢は、「競艇の選手」。

理由は、「子供のころに父親によく連れて行ってもらって、好きになったから」。

父親は彼を、動物園でも遊園地でもなく、競艇によく連れていった。

でもそれが、彼にとっての温かい思い出なんですね。

なんだか、色んなことを考えてしまう。


母親をテーマに綴られた詩の数々には、どれも胸を打たれました。

反省を綴ったものも多かったけど、中には母親の顔を見たことがなかったり、母親から育児放棄をされたりと、複雑な境遇の方がいて。

それでもやっぱり、母親がすき、会いたい、と、全員が願っていて、母親の存在の大切さを思い知るのでした。


詩を書き、それをみんなの前で朗読し、拍手を受ける。

落ちこぼれで、授業中手を挙げたこともなければ、拍手をもらったこともない彼らにとって、それは初めての体験になるかもしれない。

そうやって、自信を身につけ、また聞くことで相手のことを考え、共感する心を養う。


『いつの日か、日本中の刑務所が、からっぽになる日が来ますように。』

最後の一文に、深い愛を感じました。


当時の受刑者たちが作り上げた、荘厳な趣の煉瓦造りの建物。

そこで暮らす700人ほどの受刑者の方々に、思いを馳せて。


紋佳🐻

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