『日本一長く服役した男』


男は何故、61年も服役しなければならなかったのか。

更生と刑罰をめぐる、密着ドキュメンタリー。


令和元年秋、1人の無期懲役囚が熊本刑務所から仮釈放された。

「日本最長」61年間の服役期間を経て出所したのは、80代のやせ細った男。

出所後も刑務所での振る舞いが体に染みつき、離れないでいた。

男はかつてどんな罪を犯し、その罪にどう向き合ってきたのか?


「更生」とは。「贖罪」とは。そして「報道」とは。

3年にわたる取材の全記録。


刑期が10年以上の長期にわたり、かつ犯罪傾向が進んでいる状態の『LB』と呼ばれる受刑者を多く収容する刑務所は、全国に4か所。
(熊本刑務所、旭川刑務所、岐阜刑務所、徳島刑務所)

そこに収容されている受刑者の「高齢化」について、思いめぐらせたことなんて、ありませんでした。(無期懲役囚が、仮釈放されずに歳を重ねるケースは多いとのこと)

認知症を患ったり、運動機能が低下したり。

『隔離され、移動の自由を制限される刑務所内の随所にバリアフリー設備が導入されているのは、皮肉に思えた。』

確かに。

刑務所の福祉化・・・なんとも言えないきもちになります。


仮釈放されたAさんの話。

『この日の買い物で使ったのは、1万円ほど。
この費用は、Aが61年の間に刑務作業の作業報酬金として積み立ててきた273万円の中から支払われた。』

この文章に、胸が抉られる思いがしました。

61年間で貯めた273万円。

胸にくる。


仮釈放する、しないの問題は、とても複雑な問題ですね。

加害者側も、被害者側も、さまざま。

法で、ひとくくりに制度を決めるのは難しいのだなと思いました。

『しかし、委員会が出した結果は、「不許可」であった。その理由は、「反省の態度もうかがえ、再犯のおそれもないが、帰住先が決まっていない」というものだった。』

とにかく、仮釈放までの道が不条理すぎる。

これは、誰もが精神的におかしくなるわけだと思わされました。

そこにあるのは、絶望だけ。


『他者が反省を強要すると、受刑者は表面的には反省の言葉を述べるが、逆に本当の気持ちを抑制する。(略)その結果生きづらさが助長され、本音を語ることができず、再犯防止どころか、再犯につながる恐れすらあるという。』

この部分を読んで、真っ先に思い浮かんだのは息子のこと。

「ごめんなさいは?」と、反省を強要しているのは、「ごめんなさい」と言えない人間になってほしくないから。

でもそのせいで、反省することを放棄させているのだとしたら、とても危ない。

気をつけなくては、と思いました。


とても興味深い一冊でした。

無期懲役囚を取り巻く刑務所、法のお話も、ドキュメンタリーを制作するディレクター、記者側の話も。

貸してくださった、クラリネット吹きのお姉さまに感謝して。


紋佳🐻

読書