『落日』


脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の脚本の相談を受けた。


『笹塚町一家殺害事件』――引きこもりの男性が、高校生だった妹を刺し殺した後、家に火を点けて、両親も死んでしまった事件を手がけたいという。
千尋はその笹塚町の出身であった。

実は監督の香も、子どもの頃、笹塚町に住んでいて、千尋の姉と同じ幼稚園に通い、しかも事件の当事者の家族と同じアパートに住んでいたことがあるという……。

人間や事件の“真実”とは?
“人を裁く”ということは?
“人を赦す”ということは?


ひさしぶりの湊さん。
イヤミス(嫌な余韻を残して終わるミステリ)好きな私なので、これまで手当たり次第、湊さんの作品を拝読してきましたが、こちらはちょっと毛色が違う1冊。

なにかショッキングなことが起きた時、嫌なことが起きた時、私は「忘れる」ことが正解だと思ってきたし、いまでもそうだと思っているけれど。

「知ることで救われることもある」
ということがじんわりと感じられる物語でした。


夕陽が地平線へと沈む、田舎の景色がとてもノスタルジック。
登場人物たちの心を痛めたり、癒したり、温めたり、冷ましたり・・・

「太陽」が象徴的に描かれていて、読了後、タイトルがずしんと胸に響きました。


お腹の上でいびきをかく息子の重みを感じながらの読書。

静かで幸福な休日。


紋佳🐻