『ハヅキさんのこと』


「ねえ、どうしてもミー、飼えないの」

咲子はぽつりと言った。

「あいつ、猫アレルギーなんだ」

そう答えてから、悦之は一瞬咲子をうかがった。咲子は無表情だ。

「ミー、悦之が拾ってきたのにね」

そうだね、と悦之は優しく答える。そうだね。

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川上弘美さんの文章がすき。

決して情報量の多い方ではない文章なのに、匂い立つような濃密な空気感があって、とてもすき。

つややかで、ひんやりとした肌ざわりの表現なのに、こころはやすりをかけられたようにささくれ、ざらつく。

とてもすき。



紋佳🐻

読書