『この二次会をさっさと抜け出して家でパンをこねたい』


好きな本は自分で探すのが一番楽しいから、おすすめの本は答えたくない。

コンクリート調のカフェよりも、紙タバコを思う存分吸える巣鴨の喫茶店が好き。

他人に流されずに自分の「好き」と「暮らし」のアンテナをずっとずっと、大事にしていけたなら。

都築響一の『TOKYO STYLE』に憧れて上京した著者の偏屈な思想と、個性あふれるエピソードが炸裂する1冊。


特別なことをしているわけじゃない。

ただ、目の前の世界を丁寧に見つめているだけ。

でもそのまなざしが、人とのご縁を引き寄せ、物語を生んでいく。

それがブンさんのすごさ。


例えば・・・喫煙所の話。

『(略)しかし、吉祥寺に通って3年目の冬、自体は一変した。雪が街のすべての音を吸収して、とても静かに感じた日だった。
吉祥寺駅に着き、喫煙所に向かうと珍しく誰もいなかった。そんな日でも彼はいつもと変わらず「今から喫煙所の清掃を始めます」と言った。私一人でも変わらずにそう言う姿を見て、少し微笑んでしまった。
すると彼に突然「ハイライト?いいの吸ってるね」と言われて驚いた。(略)「好きなんです、いつも綺麗にしてくれてありがとうございます」と言うと彼は、「毎日仕事頑張っていてえらいね、好きなだけ吸いなよ」と言ってくれた。
その会話をきっかけに私は彼に会うたびに、会釈をしたり朝の挨拶をするようになった。馴染みの店ができた気分になり、吉祥寺に愛着が湧く瞬間だった。』


例えば、エクセルシオールカフェの話。

『週に3回、私はそのカフェに行き、おじいさんを探す朝を楽しみにしている。会うたびに、私が「覚えていますか?」と言うものだから、最近は私が話しかける前に「こっちこっち!」と隣の席に来るように促してくれる。
「最近は手が震えてあんまり上手に書けないんだよ」
そういう彼の字には人柄そのものが出ていて、見ていてとても柔らかい気持ちになる。』

心がほっとして、キュンとするエピソードばかり。

都会という砂漠で暮らしていた私(しかも吉祥寺で暮らしていた私)にとって、こんな出会いがどれほど奇跡みたいなものか、想像にかたくありません。


どのエピソードにも必ず「他人」がいる。

家族や友人、そして人生の中で一瞬だけすれ違った人たち。

多くの日常エッセイが「自分」を中心にまわりを描くのだとしたら、ブンさんの文章は「誰か」を見つめるまなざしから始まっている気がします。

そのやさしい視線こそが、ブンさんの世界のいちばん大切なところなのだと思いました。


紋佳🐻

読書