『黙って喋って』


「国民的地元のツレ」、ヒコロヒー初の小説!

平気をよそおって言えなかった言葉、感情がほとばしって言い過ぎた言葉。

ときに傷つきながらも自分の気持ちに正直に生きる人たちを、あたたかな視線で切り出した共感必至の掌編18編を収録。


俵万智さんが絶賛されていたこちらの作品。

『軽蔑すべきところや幻滅すべきところばかりで、尊敬できるところなどなければ、好きになれるようなところなんてひとつとして見つけられるわけはなく、彼を拒絶できる理由はいくらでも挙げられど、拒絶できない理由などなくて、ないはずなのに、なのに、どうして拒絶しきることができないまま、どうして、こうなってしまっているのか、何度も何度も、考えることを止めてきたはずなのに、振り払ってきたはずなのに、どうして、もう、何もかも、分からなくなってしまっている。』

思考が緩やかにあるいは停止しつつあるところ、考えることを放棄しつつある様子を、「読点」で感じさせてくれるところがとても好き。

文才のある人のしっかりとした文章で、読んでいるうちに「ヒコロヒーさんが書いた」ことは頭から消えてしまうくらい、夢中になりました。


『ピアスを外して、汚いスリッポンを履いた状態で、パウダールームで伸ばし直した前髪などどうでもいいとばかりに飲み始めて一時間ほど経った頃にひっつめにしてしまった雑な髪型でも、そう言ってくれる石見くんを、一人の男性として見ることができれば、否、見てはいるのだろう。石見くんの切れ長の目元も、長くて綺麗な指も、それの裏返しのような愛想のない態度も、ちょうど欲しい言葉をくれるところも、少しは魅力的に感じていることも本当で、いつだって救われているのに、飾らない自分でいられる石見くんよりも、常に飾っていたいと思わされる彼から離れられないのは、愚かなことなのだろうか。』

わかるよ・・・わかる。

飾らないでいられる人よりも、飾っていたい自分でいられる相手が魅力的なこともあるよね。

いまだったら絶対に前者なのに、若かりし頃はそれが分からない。


『自分で勝手に作り上げた登場人物たちであり、勝手に作り上げた台詞であるにもかかわらず、ひとつひとつしたためながら何度も何度も、もうお前らうるさいねん、と思わせられた。何しとんねん、しゃんとせいよ、と思いながら書いていた。共感しました、と言ってくれる人たちには必ず、おい何を言うとんじゃ、幸せになってくれよと言っていた。』

後書きのこんな激励にも愛を感じました。


凛としてクールに見えるヒコロヒーさんの言葉は、いつもやさしさと愛で溢れてる。

ああ、さらに好きになってしまった。


紋佳🐻

読書