『苦しいとき脳に効く動物行動学 ヒトが振り込め詐欺にひっかかるのは本能か?』


何でいろんなことがうまくいかないんだろう。

なんだか他の人とずれているような気がする。

そんなふうに悩んだことはありませんか?

それはじつは、ヒトの脳(本能)が「自然の中で100人程度の集団をつくって狩猟採集を行う生活」に進化的に適応してきたにもかかわらず、現代がその環境と大きく異なってしまったことから生まれているのではないか・・・。

もし、現代が100人の狩猟採集生活を送る集団だったなら、振り込め詐欺にひっかからない人は生き残っていないだろう。

ある本能は尊重し、ある本能は調整する。

行動経済学でよく使われる「認知バイアス」の「100人の集団での狩猟採集生活」における適応的意味。

数十万年前から変化していない現代人の脳と利己的遺伝子説・・・。

本書では、著者自身の苦しみを赤裸々に語りながら、それを動物行動学者として分析し、本能と社会環境とのズレによって生み出されている深い苦しみ、生きにくさの正体を動物行動学・進化心理学の視点から読み解き、現代を生き延びるための道を示唆します。


『動物は、それぞれの種に固有の、生存・繁殖がうまくいくような認知世界をもっている』という、コンラート・ローレンツの言葉を用いて、「ヒトの認知世界」について綴られた章は、なかなか専門的で難しかったけれど、わかりやすいよう工夫のされた構成で、読みやすかったです(さすが小林先生!)。


「脳という物体からなぜ意識という非物体が生じるのか」という問いは、そもそもそれ自体が間違っているのだそう。

物体も意識も等価な自然現象。

意識を前提として、物体が認識できる、と思われがちだけれど、意識というものも「何かの正しい姿を掴むために認知装置が生み出したイメージ」にすぎない、という結論には、なんだか恐ろしささえも感じました。


「個体は遺伝子の乗り物である」という、利己的遺伝子説(個体というのは、遺伝子によって、遺伝子が世代を超えて存続し続けるようにつくられた、遺伝子の「乗り物」であると考える説)も、なんだか自分という身体が遺伝子に乗っ取られているような、そんな恐ろしさがありますね。

(でもその説によって、様々なことに説明がつくという)


「生物はなぜ増えようとするのですか」

「自力で増えようとするものをわれわれは、生物と呼んでいるのではないだろうか」


小林先生の本は、どれも脳に刺激的。

ヒトがこの地球に誕生してから、たったの数パーセントでしかない現代の暮らしに、馴染めない、ストレスを感じるのは当たり前だと、動物行動学・進化心理学の視点から説明してくださる、興味深い本でした。


紋佳🐻

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