『僕はお父さんを訴えます』


驚愕のストーリー展開が評価された、第10回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞受賞作。

何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学一年生の向井光一は、同級生の原村沙紗と犯人捜しをはじめる。

「ある証拠」を入手した光一は、真相を確かめるため司法浪人の久保敦に相談し、犯人を民事裁判で訴えることに。

被告はお父さん。

母親を喪った光一にとっての、唯一の家族だった。

周囲の戸惑いと反対を押して父親を法廷に引きずり出した光一だったが、やがて裁判は驚くべき真実に突き当たる!


『スープ屋しずく』シリーズでお馴染み、友井羊さんのデビュー作。

第10回『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞受賞作で、愛犬を殺された少年が実の父親を訴えるという民事裁判をテーマにしたサスペンスで、友井さんのお兄さんが弁護士さんだという繋がりもあって、執筆されたんだそう。


『裁判をするには、印紙代と呼ばれる手数料がかかる。
訴えた金額によって変わり、百四十一万円の場合は一万三千円もかかってしまうのだ。
裁判はお金がかかるとは聞いていた。
だが、お金がかかるのはてっきり弁護士を雇うためだと思っていた。』

裁判を起こすために必要な書類、手続き、費用などが丁寧に書かれていて、主人公と一緒に一から学ばせてもらいました。

『日本の裁判は基本的に、しゃべったことのみを証拠として採用する。
だが口に出していたら時間がかかる。
そのため事前に用意した書類を「陳述する」と言えば、しゃべったことと同じだとされるのだ。』

知らなかったことが、たくさん!

「しかるべく」が、裁判における「オーケー」の意味でよく使用されることや、

百四十万円の慰謝料請求なら地方裁判所、それ以下なら簡易裁判所の管轄になること・・・

『ある事柄を知らないことが善意で、悪意とは知っていることをさす。
遺棄は放っておくという意味だ。
つまり悪意の遺棄とは、知っていて放っておくという意味になる。』

友井さんらしい、「読めば勉強になるミステリ」でした。


愛犬の亡骸を弔いたいという気持ちにお金がかかる、

かなしい気持ちが慰謝料という形でお金に変わる、

刑事裁判によって有罪になれば、牢屋へ入れられるか罰金を支払う、つまりお金と時間は交換が可能・・・

中学生の男の子が、「お金とは」ということについて一生懸命に考えをめぐらせる姿に、

「お金で何でも解決するのが当たり前の大人」の一人になってしまった自分を省みます。


「よくとっさにあんな出まかせが言えるね」
「女の子は嘘つきなのよ」
お日さまみたいに、にっこりと笑った。

気弱な主人公をリードし、サポートする推理小説好きの同級生の女の子が、とってもかわいかった。


怒涛のラストは、「それまで主人公へ抱いてきた共感・愛着」の置き所に困る、辛い展開。

弱いものを守れる大人でいたい、と願わずにいられませんでした。


紋佳🐻

読書