『波』2023年3月号


表紙がかわいい、3月号。


「胃が合うふたり」の千早さん新井さんの寄稿『直木賞受賞編』がとても良かった。

直木賞が決まった時のふたりの様子、やりとり・・・胃が合うふたりな距離感は変わらず。

編集者さんたちと待機していたカフェに持ち込んだ、ロシアンルーレット的な千早さんのおにぎり。
たらこに混じった、たった一つの梅おにぎりを、千早さん自らが当ててしまった(そしてその直後受賞の電話がかかってくる)一方で、
ストリップの先輩と呑んでいて、千早さんの直木賞受賞が決まった瞬間、大将に梅おにぎりを注文する新井さん。

そのシンクロたるや。

まさに、胃の合うふたり。最高です。

そして作家と書店員という一線を、仕事上は越えない姿が、本当にプロフェッショナル。

信頼関係って、そうやって築かれていくものなんですね。


早花まこさんの『すみれの花、また咲く頃 タカラジェンヌのセカンドキャリア』の刊行記念は、山里亮太さんと早花さんの対談と、最果タヒさんの書評。

どちらも、「宝塚がいかにして素晴らしいか」という愛情、畏敬の念が伝わってきます。

『新しい公演の稽古が始まる「集合日」が近づいてくると、いつもひたすらケーキを食べる。つらいからだ。集合日にはその公演の退団者の名前が発表されてしまうから。やめてほしくないから。集合日の記憶はいつもほとんど残っていない。』

『一人の人が人生をかけて、青春を燃やすようにして舞台に立ちタカラジェンヌになってくれた、本当はその事実だけでありがたいんだ。
けれど、「その人の人生はその人のものだ」ということを改めて胸の中で唱えるたび私は本当はひどく寂しくなってしまう。(略)でも自分の「好き」は本当にまっとうなものだろうか、寂しいってなんだろうといつも思っていた。』

ファンとしては、その人のセカンドキャリアを応援したい、けれども本当は退団して欲しくない。

そんな葛藤が、最果さんによって切実に綴られていました。

好きなものがあるって、尊い。


毎号楽しみなのが銀シャリ・橋本さんのエッセイ。

『もう服を着たまま洗車機みたいなところを通ったらピカピカになってしかも乾いてるみたいな洗人機、誰か作ってくれないだろうか。
そんなことを考えながら洗濯機を回す。
今日も僕にとって洗濯は洗浄ならぬ戦場だ。』

鰻さんの四コマ漫画にも、ほっこり。


『日日是好日』の森下典子さんの、「第1回 日伊ことばの架け橋賞」受賞記念エッセイは、読んでいて鳥肌がたちました。

偶然や縁は、繋がっていくものなのだなあと。

次号の後編も楽しみです。


遠藤龍之介のエッセイでは、遠藤周作さんが、フジテレビに内定が決まった息子の龍之介さんに放った言葉が秀逸でした。

『先日、母さんと二人で湘南に食事をしに行った。江ノ島の砂浜を歩いていたら、足が取られて疲れてしまったので、舗装されている国道を歩いた。要するにそういうことだ(略)
俺は作家で組織も守ってくれないから一人で歩かなければならない。
歩きにくい砂浜だったけどな、だけど砂浜は振り返ってみると自分の足跡が見えるじゃないか。』

そんな父親に対する龍之介さんの言葉、

『非常に快適な道を歩いておりますが、お父様が吸ったことがないような排気ガスも吸っています』

この親子、推せる。


紋佳🐻

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