『償い』


⁡ 史上最悪の少年犯罪と呼ばれる「綾瀬女子高校生コンクリート詰め殺人事件」。

たった7日間しかなかった昭和64年(1989年)の1月に被害者のX子さんは息絶えた―。

おぞましい犯行に及んだ主犯格A、準主犯格B、自宅が監禁場所だったC、監視役D、暴行に加わったE、F。

6人の加害少年はその後、どんな人生を歩んでいるのか。

本当に更生を果たしたのか。


元「ニュースステーション」ディレクターで、現在は北海道放送(HBC)の報道部デスクを務める山﨑裕侍氏は、2000年頃から本件の取材を続けてきた。

Fが振り返った凶行の中身と悔恨。張り込みの末に行ったCやEへの直撃。

さらにDの母親による告白など、本人や家族へのインタビューを重ねていく。

著者の葛藤も交えながら描かれるテレビ報道の舞台裏も本書の特徴の一つだ。

とりわけ多くのページが割かれているのが、準主犯格Bの存在。

彼は刑務所から出所後、更生するどころか、暴力団関係者らとトラブルになって再犯事件を起こしていた。

B本人との手紙のやり取りや面会、Bの母親や義兄への取材を通じて、「事件の裏側」と「加害少年のその後」に迫っていく。

そして主犯格Aの親族もまた取材に対し―。


一体、「償い」とは何なのか。

加害者や被害者と同世代の著者が地を這う取材で紡ぎ出した渾身ノンフィクションが誕生!


更生や償いの意識を持ち、働き、家庭を築いた出院者もいる。

結婚前に妻へきちんと過去を説明し、いずれは自分の子どもにも伝えたいという人もいれば、我が子には話さないと思うという人もいる。

一方で、刑務所を出たあと母親のもとでニートのような生活を送っている人物や、まったく反省の色を感じさせない人物もいる。

そんな彼らの姿を見ていると、人間というものの複雑さを感じずにはいられませんでした。


「今日の息子さんの様子は?」
「昨日ちょっと寝るのが遅かったので、私が出たときはまだ寝ていました」
「昨夜は会話がありましたか?」
「会話は全然ないですね、隣の部屋なんで物音で大体わかるんですけど」
「小さいころはどんな子どもでしたか?」
「小きいころは結構、親思いの子だったと思いますね。私の記憶に残っていて、嬉しかったのは3歳くらいのときでしょうかね、「僕が金づちで新しいお家を建ててあげるから、ママ』と言っ
てましてね。そのときは喜びましたよね。あと、私が疲れていたとき、足を揉んでとか、肩を揉んでとか言うと上手に揉んでくれました」

こんなにも母親思いだった男の子が、親子のすれ違いから「母親不信」に陥り、歯車がばらばらになっていく。

インタビューを読んで、いたたまれない気持ちになりました。


『苦労を重ね、爪に火をともすような生活で、2人を育てるのに必死だった。波風を立てないように、子どもを気にかけるよりも世間体を優先した。息子のSOSより、学校や警察の言い分を聞き入れた。だがDへの愛情がなかったわけではない。強くなってもらいたい・・・その思いが息子には伝わらなかった。Dの胸に巣くった小さな不感が次第に大きくなり、世の中すべてのものに対して無関心を装う心が形成されたのかもしれない。』

親ってなんて責任の重い役なんだろう。

ただ絶望しました。

いまはまだ幼く、言葉で愛を伝え合える我が子たちが、将来何かをきっかけにして別人になってしまう可能性を秘めていると知ったときの衝撃。

子育ての恐怖というものを、はじめて感じる体験もなりました。


『茨城県牛久市にある少年院茨城農芸学院は、2000年の改正少年法に「被害者の存在」が初めて盛り込まれたことをきっかけに、被害者への謝罪や償いをテーマにした教育に積極的に取り組んでいた。しかし、法務教官も含めて直接被害者から話を聞いたことはなかった。そこで講演活動を続けていた飯島さんに話が持ちかけられた。
2002年11月、茨城農芸学院で飯島さんの講演が行われることになった。少年院の少年たちに向けて被害者遺族が対面で話すのは全国でも初めての画期的な取り組みで、僕は密着取材が許可された。』

所属する楽団が、毎年訪問コンサートをさせていただいている茨城農芸学院の話も興味深く拝読しました。

被害者遺族のひとりである飯島京子さんは、被害者家族の立場から講演を行うために農芸学院を尋ねていらっしゃいました。

その感想が、「その年頃の少年たちを見ていると、やはり自分の息子のように感じられてしまって」。

怒りやかなしみ、絶望に呑み込まれながらも、少年たちには更生してほしいきもちでいっぱいだと語られた飯島さんの言葉に、(ああ、母という生き物は)と愛おしさで胸がいっぱいになりました。


多くの少年犯罪において、親子関係の歪みが背景にあるとしたら。

ただ本人に厳罰を与えるだけではなく、本人だけでなく「親にこそ」フォローが必要なのではないかと思わされた内容でした。


紋佳🐻

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