『ライオンのおやつ』


人生の最後に食べたいおやつは何ですか―

若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。

ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。

食べて、生きて、この世から旅立つ。

すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。


2020年本屋大賞ノミネート作品(第2位)。

余命を宣告された主人公が、瀬戸内の海と、レモン畑に囲まれた、穏やかなホスピスで、己の病、いのちと向き合う物語。


『死を受け入れる、ということは、自分が死にたくない、という感情も含めて正直に認めることだった。少なくとも、私にとってはそうだった。』

主人公が、ホスピスの利用者との別れによって自暴自棄になる様子に、共感しました。

私も、数年前、義父が突然亡くなった時に、その後しばらくは無気力でした。

どんなに真っ当に生きても、私のことを知っている人は、いずれ絶えるし、この気に入っている家も、庭も畑も、どんなに手入れしたって、100年やそこらで更地になって・・・。

だったら、なんの為に生きる必要があるの?頑張る必要があるの?

いつか、必ず、全てなくなるのに、と。


時間という薬が効き、また、丁寧に暮らす中でちいさな幸福を積み上げることが、生きるたのしさなのだと、隣りで教えてくれる夫のおかげで、いまは悲観的なきもちはないけれど。

(あと、生きることに貪欲な我が子と向き合うことで、その感情は雲散する)

でも、自分も余命を宣告されるような病気になったりしたら、またいつ、あの無気力というかたちで表れる「死への恐怖」、「生への疑義」が頭をもたげるかわかりません。


終盤の、主人公の命のテンポが落ちていく様子はとてもリアルで、それでいてとてもしあわせそうで。

追体験していたら、口の中が涙の味でいっぱいになるほど泣きました。

死ぬのが少し、怖くなくなる物語でした。


紋佳🐻

読書