『まだ温かい鍋を抱いておやすみ』


今がどれだけキツくても―

“おいしい"が、きっとあなたの力になる。

ほろ苦く、心に染み入る極上の食べものがたり。


「遠くへ行きませんか」
「行くー!行きましょうぞ!」

スポーツ用品販売会社に勤める素子は、同じく保育園に通う子供を持つ珠理を誘って、日帰り温泉旅行に出かけることに。

ずらりと食卓に並ぶのは、薬味をたっぷり添えた鰹のたたき、きのこと鮭の茶碗蒸し、栗のポタージュスープ。

季節の味を堪能するうち、素子は家族を優先して「自分が食べたいもの」を忘れていたこと、母親の好物を知らないまま亡くしてしまったことに思いを巡らせ・・・(「ポタージュスープの海を越えて」)


彼女が大好きな枝豆パンは、“初恋の彼"との思い出の品。
病に倒れた父の友人が、かつて作ってくれた鶏とカブのシチュー。

“あのひと口"の記憶が紡ぐ6つの物語。


『その人が扉を開いた瞬間、秋口には珍しく温かい夜風が吹き込み、ぐるりと店内を一巡りした―』

『四月なのに、メリーゴーランドから流れてくるのはクリスマスの曲だった―』

小説を読むとき、「初めの一行」は私にとって特別な存在。

これから広がっていく物語を想像させ、またその世界にぐいっと引き込んでくれる一文と出会えると、それだけでその本を開いた幸福を感じます。

最近はなかなか、そんなぐっとくる書き出しの文章と出会えていなかったのですが、先日拝読して好きになった彩世まるさんの、こちらの短編集、やっぱり素敵でした!

ぐいぐい、引き込まれます。


『生きることは食べることで、食べることは殺すことだ。』

鳩や鴨、猪を狩ったり、釣った魚を締めたり・・・

透明感のある文章でありながら、きれいだけで終わらない彩世さんの作品は、力強くて、嘘がない。

すきです。


紋佳🐻

読書