『自転しながら公転する』


結婚、仕事、親の介護、全部やらなきゃダメですか。

共感と絶賛の声続!

あたたかなエールが届く共感度100%小説!


東京で働いていた32歳の都は実家に戻り、地元のモールで店員として働き始めるが・・・。

恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理。

答えのない問いを生きる私たちをやさしく包む物語。

7年ぶり、待望の長篇小説!


怒涛の展開に思わず、朝4時まで布団の中でページをめくる手が止まらなくなりました。


『牛久大仏』、『あみプレミアム・アウトレット』、『常磐線』の登場から始まる地元が舞台の物語。

景色の描写だけで、「あ、牛久シャトーだな」と場所を特定しながら読めるのは、地元民ならでは。


『言いたいことを言う、ということが必ずしも気の晴れることではないことを最近都は痛切に感じることが増えた。気持ちを抑えて黙っていたほうが楽なことも沢山ある。』

主人公の心理描写がほんとうに細やかで、深くて、山本文緒さん、素敵です。


『家にいるのがいやでいやで仕方なかった。でも捨てたいほどの毒親でもない。母は病気なのだ、病気になったのは母のせいではない。』

家族の介護にあたる人手は、複数あれば助かるのかというと、そうとも限らない。

収入、社会的責任の重さの格差によって、のちに誰かひとりに負担が集中してしまうもの。

その中で生まれる、「介護者間での摩擦」が、なんとも生々しく描かれていて・・・読んでいて本当に辛かったです。


アパレル業界で働く主人公のお話だったので、服の話もちらほら。

『服には、その服を着る必然性が要る。もし、素敵な服が好きで、それが着たいのならば、そういう服を着る必要のある生活をするしかない。』

なるほどなあ~と深くため息。

いまは、着たい服を着ている自分がいるので、逆に、「着たくない服を着なくてはいけない生活からは卒業したなあ」とも実感。


『彼女といると最初は苛々するのだが、十分くらいすると慣れてきて急に楽になる。賑やかで単純で、思ったことがすぐ顔や口に出る。他人がどう感じているかあまり斟酌しなさそうなので、それが癪に障るときもあるが、探られている気がしないので楽でもある。』

くぅ・・・こういう複雑な人間関係を、こうも丁寧に紡げるなんて!と、感激の連続です。


貧困社会、偏見、固定概念、人権問題、自然災害、老後問題・・・

登場人物たちのジェットコースターのような精神状態の変化・・・

いろんなことを考えさせられた、深い物語でした。

読んでよかった。

2021年10月に58歳という若さでお亡くなりになったのが本当に惜しい作家さんでした。

ご冥福をお祈りしております。


紋佳🐻

読書