『犬も食わない』


派遣秘書の福は雇い主と出かけた先のビルで、廃棄物処理業者の大輔とぶつかった。

ろくな謝罪もない舐めた態度に激高した福は罵詈雑言の限りを尽くし、大輔は一言でやり返す・・・

そんな最悪な出会いから始まった。

ベッドの半分を占める体は邪魔だし、同じシャンプーが香る頭は寝癖だらけ。

他人の「いいね」からは程遠い、喧嘩ばかりで格好つかない恋愛の本音を、男女の視点別に描く共作小説。


千早さんはもちろん存じ上げているけれど、ミュージシャンの尾崎世界観さんが・・・すごい!

「あの」千早さんと、対等に殴りあえている感じが、すごい。

繰り出す言葉の強さとか、熱とか。

なかなか千早さんとやり合える作家さん、いないだろうに。

男性目線、女性目線で、リレー形式で綴られていく小説なのですが、『ひとりの作家が書きました』と言われても違和感がないくらいの親和性でした。


『せめて一人にしてやろう。今の自分にできることはそれだけだ。
何を考えても一緒、言葉だって、口の中に入れておけば誰も傷つかない。』

男性ならではの視点、表現、面白い。

『めんどうくさい。喧嘩して、なにかをあらためてもらっても、もうその成果を目にすることはない。
むしろ、あたしと別れた後に大輔と付き合う女が得をするだけだ。
奈津子の結婚式の二次会で誰かが言っていた。
いい男は過去の女の努力の賜物、と。』

『ただ、そんな風に理解してしまえば、もう終わりなのだ。
心に距離ができれば冷静になれる。
関係を俯瞰できるし、相手の出方を見る余裕も生まれる。
恋愛が美しいものになるのは過去になったときなのだから。』

千早さんはもう、さすがです。

若い頃はあまりピンとこなかった文章も、いまならすごく刺さる。


期待以上に面白い一冊でした。

いいなぁ、こういう共作。


紋佳🐻

読書