『センセイの鞄』


駅前の居酒屋で高校の恩師・松本春綱先生と、十数年ぶりに再会したツキコ。

以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは列車と船を乗り継ぎ、島へと出かけた。

その島でセンセイに案内されたのは、小さな墓地だった―。


40歳目前の女性と、30と少し年の離れたセンセイ。

せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。

切なく、悲しく、あたたかい恋模様を描き、谷崎潤一郎賞を受賞した名作。


『ビールが体の中を下りていった。しばらくたつと、下りていった道すじがほんのりとあたたまる。味噌をひとなめ。麦味噌だ。』

『わたしは味噌を指ですくって、なめた。おでんを煮返す匂いが、店の中に満ちていた。』

太田和彦さんが川上弘美さんとの対談の中で、この本は「居酒屋の入門書だ」と仰っていて、ならば、と手にしました。


まだ缶やペットボトルが無かった時代に、鉄道で、お湯とお茶パックを入れて販売していた「鉄道土瓶」。

鉄道土瓶、という言葉も初めて知った私ですが、画像検索をしてみて、その朴訥とした愛らしさに、すっかり魅了されました。

壊れやすいし、重いし、旅のお供には向かないかもしれないけれど、かわいい。

欲しい!家で使いたい!と心から思いました。


淡々とした文章からむわりと匂い立つような、濃密な空気感。

川上弘美さんの綴る文章の余白が、とても好き。


紋佳🐻

読書