『タラント』
あきらめた人生の、その先へ―
片足の祖父、学校に行けなくなった甥、〝正義感〟で過ちを犯したみのり。
小さな手にも使命が灯る、慟哭の長篇小説。
「今、だれもがスタートを待っている」
周囲の人々が〝意義ある仕事〟に邁進する中、心に深傷を負い、無気力な中年になったみのり。
実家に届く不審な手紙、不登校になった甥の手で、祖父の過去が紐解かれるとき、みのりの心は、予想外の道へと走りはじめる。
NGO団体や学生ボランティアなどによる国際活動について、パラリンピックの歴史、戦時中の様子、東日本大震災の時の様子、コロナ禍における世界の変化・・・
あらゆる時代の、世界を見ることが出来る大作でした。
戦争で身体の一部を失った子どもや
自身以外の家族を失った子ども、
親に捨てられた子ども、
信じるもののために爆薬を身体に巻き、自爆する子ども―
親として読むのが辛い部分も。
でも決して「自分たちの正義で物事を捉えるな」と、釘を刺すことを忘れない角田さん。
何が「普通」の「幸せ」なのか。
考えさせられます。
祖父と孫の目線で交互に語られていくそれぞれの物語は、戦時中と現代という時代を超えて、「なぜ死んだのはあいつで、自分じゃなかったのか」という同じ気持ちに着地。
生きる意味、生かされる意味について、登場人物たちに寄り添って、悩み、苦しみました。
戦争に行かされた人たちにも、戦争がなんなのかよく分かっていない。
難民キャンプにいる人たちにも、何が起こっているのか分からない―
であるならば、自分たちには何ができるのか。
どう物事を捉えていけばいいのか。
ボランティアに行った学生たちの、それぞれが感じることの違いも興味深かったし、
「苦しいなら見ないという自己防衛も悪いことではない」という提案も肯定されていてよかったです。
443ページもある長編でしたが、角田さんの文章力に強く惹き付けられたまま、読み切れてしまいます。
「メニュー」じゃなくて、「メニュウ」と記す角田さんの活字センスにきゅんきゅんしました。
紋佳🐻
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