『兵士は戦場で何を見たのか』


2007年、カンザス州フォート・ライリーを拠点にしていた第16歩兵連隊第2大隊がイラクに派遣される。

勇猛な指揮官カウズラリッチ中佐は任務に邁進するが、やがて配下の兵士たちは攻撃を受けて四肢を失い、不眠に悩まされ、不意に体が震えてくる・・・

ピューリツァー賞ジャーナリストが、イラク戦争に従軍したアメリカ陸軍歩兵連隊に密着。

若き兵士たちが次々に破壊され殺されていく姿を、目をそらさず見つめる。

兵士たちの心の病に迫った話題作『帰還兵はなぜ自殺するのか』をもしのぐ、衝撃のノンフィクション!


『もしも陸軍に彼を快く思っていないところがあったとすれば、同じように彼にも陸軍を快く思っていないところがあった。
たとえば彼は、国防省の中で勤務するような地位などほしくない、そういった仕事は真の兵士ではなくゴマすりにこそふさわしい、自分は徹頭徹尾、真の兵士なのだ、と主張していた。(略)
彼には思いやりがあった。傲慢だった。人間くさかった。自分のことにしか興味がなかった。(略)
しかし、そういうことはあっても、根っからの優れた指導者だった。
周りに集まる人々は彼の考えを知りたがったし、たとえそれが危険なことであろうと彼の命令であれば、実行しないと恐ろしい目に遭うからではなく、彼を失望させたくないがためにその命令に従った。』


戦争の記録が、時系列とともに、現場目線で記されていく、その合間に、各章の冒頭で、その時のブッシュ大統領の演説が挟み込まれているのが秀逸でした。

大統領が、どのようにメディアに映り、その時イラクでは何が起こっていたのかを、同時進行で読み進めることができます。


『悪臭を放つ水たまり、動物の死骸、人々や犬が漁ったゴミの巨大な山、隊列によって舞い上がった埃の中に現れる捻れた異様な形の金属などを目にし、9・11後の世界貿易センタービルの残骸の映像を思い出す者もいた。』

イラクの様子は詳しく知らなくても、9・11の映像は記憶に新しい。

これはノンフィクションなのだと、改めて思わされる描写。


『平和をもたらすためには金と車が必要なのです、と言う。あるいは「新しい銃が必要です」と。』

現地のイスラム教指導者の言葉が、これ。

平和について、考えさせられます。


ジャーナリストの望遠カメラが、武器だと判断されて、撃たれる。

そしてこの時の攻撃する側の様子も描かれているのが、なんともリアルでした。

撃つ方も、撃たれる方も、同じ人間。

家族があって、国の為にと、命を懸けてそこにいる。


先日、自分はディストピアSF小説が好きなのだ、人類に絶望したいのだ、と言っていたけれど。

ノンフィクションの戦争ものこそ、その真髄かもしれないと思わされました。

絶望的で、希望がなくて、灰色。


紋佳🐻

読書