『神さまショッピング』


幸せになりたい。
ゆるして欲しい。
寿命を延ばして。
縁が切れますように―あなたの願いは何ですか?

夫にも誰にも内緒でひとりスリランカへ向かった私が、善き願いも悪しき願いも叶えてくれる神さまに祈るのは、ぜったい誰にも言えないあのこと―

神楽坂、ミャンマー、雑司ヶ谷、レパルスベイ、ガンジス川。

どこへ行けば、私の願いは叶うのだろう。

誰もが何かにすがりたい今の時代に、私のための神さまを求める8人を描く短篇集。


はるばる何時間も飛行機に乗り、さらにそこからバスや車で移動し、そして何時間も歩いた先に、ようやくお目通りが叶う世界各国の神さまたち。

そこまでして足を運ぶ動機―恨みや懺悔、恐怖といったさまざまな理由を抱えながら、人は神さまと対峙したとき、どのように振る舞うのか。

その姿を登場人物を通して追体験できたことが、とても興味深かったです。


逆になぜ自分は普段から神さまを必要と感じないのだろうかと考えながら読み進めていたのですが、その答えのヒントとなったのが次の部分。

『雅志はそれを聞いて、自分たちは決定的に違う、そもそも相容れない人間だったのだと思った。自分の中身を空にして生きるなんて、雅志には薄気味悪いとしか思えなかった。修行僧や修験者じゃあるまいし。
そしてなぜダンスインストラクターに惹かれているのかもわかった。彼女はチエちゃんと対極だった。自分が空にならないよう、手当たり次第に取り入れて満タンにしようとしている。
生きるって、でもそういうことじゃないか。つねに満タンにして、それをエネルギーにして進んでいくものなんじゃないのか。
自分もつまりはそちら側の人間なのだと思った。』

自分が空っぽにならないように、常に何かで満たしている状態。

だからこそ、神さまに頼らなくても生きていくための熱量が生まれてくる。

でも、それはとても豊かな証でもあるのだと気づかされました。

衣食住に困っていないことが前提としてあって、夢中になれて自分を満たしてくれるものや文化がある。

これを有り難いと言わずしてなんと言う。


8編からなる短編小説でしたが、特に最後の作品はずっしりときました。

働かずにお金を無心し、癇癪を起こしては家中を破壊する息子に怯える母親の物語。

逃げるように女性をつくって離婚した元夫に、まずひと言物申したい気持ちはいったん脇に置いて。

発達障害でも疾患でも、何でもいいから理由がほしかった。そんな思いで受けた検査の結果がグレーゾーンだったときの、絶望にさらに絶望が上塗りされていく様子が、あまりにも残酷で胸に迫りました。

残り数ページになってもなお、そこに希望の光が差す気配はなく、いったいどうなってしまうのかと、はらはらしながら読み進めました。

ページをめくる指に、つい祈りがこもってしまう本ありますよね。


おひさしぶりの角田光代さん作品でしたが、いまが人生でいちばん「角田光代さんが刺さるお年頃」かもしれない、と思っている30代女です。


紋佳🐻

読書