『体の贈り物』


食べること、歩くこと、泣けること.・・・

重い病に侵され、日常生活のささやかながら、大切なことさえ困難になってゆくリック、エド、コニー、カーロスら。

私はホームケア・ワーカーとして、彼らの身のまわりを世話している。

死は逃れようもなく、目前に迫る。

失われるものと、それと引き換えのようにして残される、かけがえのない十一の贈り物。

熱い共感と静謐な感動を呼ぶ連作小説。


ホームケア・ワーカーとして、日常生活が困難なエイズ患者宅で、家事や身の回りのケアをする主人公。
目で見て、肌で感じる、「生と死」の揺らぎが綴られています。


『エドはスプーンを落とし、両手に顔をうずめた。肩が震えた。
私はエドの肩に触った。
エドは両手を顔から離して私を見た。
顔も目も赤かった。
口が動いていた。
ほかの部分も泣こうとしていたが、涙管が損なわれていて、泣けなかった。』
―「涙の贈り物」


『シーツを引っぱり上げて、体に掛けようとしたところで、彼が片手で私を制した。
「まだ掛けないで」と彼は言った。
「空気がすごく気持ちいい。空気を肌に感じていたいんだ」』
―「肌の贈り物」


身体が不自由になるにつれ、心も敏感になっていくのが真っ直ぐに伝わってくる描写の数々。

その生命の繊細さに触れることのできる名作ですね。


そしてやはり柴田元幸さんの翻訳は、本当に無駄がなくて、ストレートで、きもちがいいです。

心のど真ん中で受け止める感じ。


紋佳🐻

読書