『満月の娘たち』


どこにでもいる標準的見た目の中学生の私と、オカルトマニアで女子力の高い美月ちゃんは保育園からの幼なじみでママ同士も友だちだ。

ある日、美月ちゃんの頼みでクラスで人気の男子、日比野を誘い、3人で近所の幽霊屋敷へ肝だめしに行ったのだが・・・。

幽霊屋敷探検を発端におこる様々な出来事を通じ母と娘たちの葛藤と成長とがリアルに描かれる。

話題の母娘問題を独特の観察眼でとらえた感動作。

椋鳩十賞、小さな童話賞大賞受賞作家、「頭のうちどころが悪かった熊の話」の安東みきえ氏、初の長編小説。


『顔を上げた。盆地だから、まわりのどこを見ても、山が連なっている。
この山並みが以前は好きだった。青い夏山にも、白い冬山にも、いつも守られている気がして見上げるたびにほっとしていた。
でもいつからか、ちがうと感じるようになった。囲んだ山に見張られているみたいで、息がつまりそうになる。
山は守ってくれるものではなく、行く手をさえぎる壁に思えてきたのだ。』

『ママに謝られた時、一瞬、ママに勝ったと思った。
でもそれはぜんぜんうれしいことではなく、ちりちりと胸が痛むことだった。』

『どうってことないわ。
もしも私なら、最後に大嫌いって言われたってどうってことないわ。子どものついた悪態なんてなんでもない。
覚えてもいないわ!』

とてもすき。

初の長編作ということを感じさせない、言葉の細やかさ。どこを読んでも浅くない。

終盤は「母親」がもつ子どもへの愛の迫力に、涙が込み上げました。

その愛を、「大人は身勝手だ」と、最後まで受け止められない少女たちを描き切るのも安東さんらしくて、ほんとうに良い。


絵本・短編で楽しめた安東さんの良さが、全く薄まっていないどころか、パワーアップしている一冊でした。


紋佳🐻

読書