『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』


650年にわたる血みどろの王朝劇―

欧州いちの一族と謳われたハプスブルク家。

その王や王妃の波乱万丈の物語を、デューラーからマネまで、12の名画に寄り添いながら読み解く。

絵画全点オールカラーで収録。


『赤いソファに使う栗をかしげているのは、彼の姉だ。居てしかるべき王妃は、一度もサン・スーシに足を踏み入れたことはない。結婚直後からずっと別居状態なのだ。
それは王妃の落ち度ではなく、単にフリードリヒが女性嫌いで―母と姉しか愛さなかった―、女性に触れるのも嫌だったからにすぎない(とうぜん子孫を残す考えはなく、王位は甥へ譲ることになった)。大王の周りには、軍人や文人ばかりがひしめき、プロイセン宮廷は他国の宮廷に比べて極端に女性の数が少なかった。その意味においてこの歴史画は、鑑賞者に誤解を与えるかもしれない。つまり大王の私的コンサートを楽しんだ者の半数は着飾った女性たちだった、との誤った情報を。』

『皇帝が生涯変わらず妻を愛し続けていた、と言う見方はロマン主義にすぎるであろう。
エリザベートはとうに妻ではなく、子どもたちの母だったこともなく、王妃としての職務からはひたすら逃げていた。
フランツ・ヨーゼフは困難な政務においては、長らく母ゾフィーに支えられ、母亡き後は愛人で女優のカタリーナ・シュラットから精神的に助けられてきた。
不幸な夫婦は、夫婦になるべきではなかったという事実を、四十五年もかけて丹念に確認しあってきただけなのかもしれない。』

文章がとにかく素晴らしい。

よみやすい。わかりやすい。

簡潔ながら洒落もきいている。

学術的に頭が良いだけじゃなくて、文学の豊かさもご存知の方の書く文章だわ、と読み始めて数ページでわかりました。

こういう作家さんの新書はとにかく読みやすい。


それにしても。

男子を産め産めと、多産を強いられた昔の女性は大変だったなあと(産褥期に亡くなることも多い)。

16人産んだとか18人産んだとか・・・読んでいるだけでくらくらしてきます。


フルカラーで、しっとり厚めの良紙。

絵画一点一点、発色の良さのおかげで楽しめました。

本を開いただけで、興奮しました。


ミュージカル『エリザベート』を観劇したときに、もっとハプスブルク家のことを知っていたら、より作品を楽しめたかもしれないと反省したほど興味深い一冊でした。

こんなに文章にリズムのある方とは知らず。

『怖い絵』シリーズも拝読したくなりました!

貸していただいたお姉さまに感謝して。

しかし・・・こういう作品は校正さん泣かせだろうなあと『校正・閲覧11の現場』を拝読したばかりの私、震えるのでありました。


紋佳🐻

読書