『熱源』


故郷を奪われ、生き方を変えられた。
それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。

北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。
人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。

明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。
見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。


第162回 直木賞受賞の作品。
とにかく読むのに精神力が必要でした。
こんなに読み進めるのに時間が必要な本は年に一冊読む程度。

それでも読んでよかった、と思えたのは、読み終えたときに自分の中に新たな知識と想いがしっかりと残っていたから。


『故郷だったはずの島は、人が生む矛盾と理不尽の集積場のようになっていた。』

『文明に潰されて滅びる、あるいは呑まれて忘れる。どちらかの時の訪れを待つしか、自分たちにはできないのか。』


ロシア語を強いられたポーランド人と、日本語やロシア語を強いられたアイヌのひとが樺太で交流していくのですが、アイデンティティを否定されながらも、「生きていくための熱」をそれぞれの考え方で持ち続けていく姿は力強かったです。


初めはカタカナ表記のアイヌ名で記されていた地名や単語が、最後には当たり前のように漢字表記されている様子に、文明が文明を吸収していく様子をこの身で体感。

「便利なもの」はともかく、「衛生に関わるもの」は人類で共有すべきだと思うのだけれど、

作中にもあるように、理解するのに必要な「知識」、民族のポリシーや伝統が、それを妨げたりする。
かといって、「異民族の文化を残すべきだと、発展の手助けをしない」というのが正解だという気もしないし、ああ難しい。

本州で生まれ育っている日本人だって、昔の人といまの人では、考え方も精神も、かなり違うわけで。

「遺しながら変わっていく」という方法を模索していくのが、人類の課題なのかなと思いました。


樺太の先住民はアイヌだけでない、ということも知らなかった私、とても勉強になりました。

人の手で始まった戦争は、人の手で終わらせられるはず。
良いメッセージでした。


紋佳🐻

読書