『灰の劇場』


大学の同級生の二人の女性は一緒に住み、そして、一緒に飛び降りた―。

いま、「三面記事」から「物語」がはじまる。


きっかけは「私」が小説家としてデビューした頃に遡る。

それは、ごくごく短い記事だった。

一緒に暮らしていた女性二人が橋から飛び降りて、自殺をしたというものである。

様々な「なぜ」が「私」の脳裏を駆け巡る。

しかし当時、「私」は記事を切り取っておかなかった。

そしてその記事は、「私」の中でずっと「棘」として刺さったままとなっていた。


ある日「私」は、担当編集者から一枚のプリントを渡される。

「見つかりました」

彼が差し出してきたのは、一九九四年九月二十五日(朝刊)の新聞記事のコピー。

ずっと記憶の中にだけあった記事・・・記号の二人。

次第に「私の日常」は、二人の女性の「人生」に侵食されていく。

新たなる恩田陸ワールド、開幕!


『「舞台ってさ、抽象化と同時に具体化なんだなって思ったよ」
私は溜息混じりに呟く。
「『ザ・虚構』なのに、生々しい肉体がそこにあるわけじゃん。矛盾してるよねえ。
原作ではとことん匿名で顔がないのに、舞台の上には顔がある」』

『私が小説家という商売だからだろうか。
他人の人生ばかり想像し、書きつらね続けているせいで、自分の人生にも虚構性を感じてしまうのだろうか。
自分の人生にも実感が持てないのならば、他人の人生を紙の上に描くというのはどういう意味を持つというのだろうか。』

小説家である主人公の苦悩が、そのまま恩田さんの苦悩として読者にぶつけられているような、そんな必死さと熱量でいっぱいでした。

読んでいるこちらまで、追い込まれるような感覚になっていきます。


それから、こんなにも「あとがき」を、じっくりと読むなんてことも、なかなかない経験でした。

そうせざるを得ないほどの、恩田さんの想い、実験的試みの詰まった作品だったなと。


『劇場』というワードで手にした小説だったけれど、恩田さんを読み漁っていた高校生時代ではなくて、ある程度生きてきた「いま」、読むことが出来て良かったと、心から。


嗚呼、私も、
「絶望」の恐ろしさを、知ってしまった。


紋佳🐻

読書