『全員悪人』


「どちらさま?誰かに似ているようですけれど」

私には居場所がない。
知らない女に家に入り込まれ、今までずっと大切に使い、きれいに磨き上げてきたキッチンを牛耳られている。
少し前まで、家事は完璧にこなしてきた。
なんだってできました。
ずっとずっと、お父さんのために、息子のために、なにからなにまで完璧に、私は家のなかを守ってきました。
あなたはいつも、お母さんって本当にすごいですね、完璧な仕事ですよと言ってくれた。

あなたに一度聞いてみたことがある。
なんなの、毎日代わる代わる家にやってくる例の女たちは?
そしたらあなたは、「お母さん、あの人たちは、お父さんとお母さんの生活を支援してくださっている人たちなんです。介護のプロなんですよ」って言ったのだけど、こちらは家事のプロですから。
私は主婦を、もう六十年も立派に勤めてきたのです。

家族が認知症になった。
対話から見えた、当事者の恐れと苦しみを描く。


「誰も悪くない」

まず、そう思いました。

タイトルに反して。


自分のことを認知症だと自覚できないことが、こんなに不幸を招くとは思っていませんでした。

みんな嘘つき、自分を騙そうとしている、自分だけがまともで信じられる―

暴力を奮ったことも忘れ、全ての責任を他人に押し付けて。

認知症本人の目線で描かれているが故に、よりいたたまれない気持ちに。

本人の普通と、世界の普通がズレていく様は恐ろしいものがありました。


捨てようとしていたものを捨てられない、

詐欺に引っかかる・・・

そんな場面での心理状態も、細やかに綴られていて。


『認知症はね、大好きな人を攻撃してしまう病なんですよ。
すべて病がさせることなのです。
この言葉が今の私を動かしている。
村井理子』

読み終えたあとは、少し息を吸いにくい自分に気がつきました。

苦しい。やるせない。

でも、1番苦しいのは、当事者、本人なんだろうな。


最近ハマりにハマっている村井理子さん。

やっぱり、良い。


紋佳🐻

読書