『生殖記』


◆「2025年本屋大賞」ノミネート・「キノベス!2025」第1位◆

『正欲』から3年半。

本年度最大の衝撃作、大反響10万部突破。

とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。

体組成計を買うため―ではなく、寿命を効率よく消費するために。

この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。


本屋大賞にノミネートされている時から気になっていたのですが、書店員さんの手書きポップを読んだが最後、購入していました。

『すごいですよね。だってお金って、実体として存在しないんですよ。
国家とか貨幣とか神様とか人権とか、ヒトが大切にしているもの、それどころかあらゆる行動の基点に置いてさえいるものって、自然界にもともと存在しないものばっかりなんですよね。ほんと、稀有〜。』

『ヒトはどうせ自分に都合のいい情報しか受け取れないし、そもそも専門書だって"それ"にまつわる森羅万象が書かれているというよりは、著者が認知し得る情報、著者が掲げたテーマに関連する情報が集められているわけですから。ヒトは常に、何らかの方向に偏った状態で情報を取捨選択しているんです。
感情を持ち合わせて生きている以上"それ"について調べれば調べるほど"それ"の真実からは遠ざかるんだと思います。
まあでも、別にそれくらいでいいのか。
ヒト、本当は真実になんて興味ないですもんね。』

この、ヒトを俯瞰して見ている語り手の皮肉がなかなかにパンチが効いていて。なんだろう、副音声を聞きながら映画を観ているような。

とにかく作品が立体的。

登場人物たちよりも、限りなく読者側に近いところにいる語り手による「ヒト」に対する感想は、読めば読むほど人類の一員である自分が追い込まれていく感じがします。


ブーム、流行、なんとなくの空気・・・

ヒトの価値観は、結局時代の流れで変わっていくだけ。

差別や偏見が解消されたところで、結局は資本主義のもとで金儲けのコンテンツとして利用されて。

おおぐうの音も出ない。


とりあえず、タイトルが秀逸すぎる。

「正欲」からの、「生殖器」

・・・天才だ、朝井リョウさん。


紋佳🐻

読書