『へびつかい座の見えない夜』


地方の不動産会社で働く瑞季は、鬱屈した日常の中、自分だけの小さな楽しみとして「アルパカのヤスオ」のキーホルダーをひそかに集めている。

ところが、孤高を貫いて怖がられている先輩社員の今泉さんとの意外な共通点やささやかな交流を通じて、瑞季の心に少しずつ変化が訪れる―

表題作をはじめ、誰かにとっては価値のないものを大事に集める人と、その心を汲み取ろうとする人たち。

そんな彼・彼女たちが、ぎこちないながらも心を通わせていく姿を優しく綴った、五つの物語からなる愛おしい短編集。


『気力を振りしぼって炊飯器の釜を洗い、朝のために米を研ぐ。予約炊飯のピーッという電子音が、私の定時を告げるタイムカードのように思える。主婦の仕事に定時はないけれど。』

『一年間付き合って結婚を決めた。春夏秋冬を一緒に過ごし、この人ならまあ大丈夫だろうと思ったのだ。大きく情動を揺さぶられるようなときめきがあったわけではないけれど、大きな問題があったわけでもない。二十代の終盤に差しかかってきたタイミングで申し込まれた結婚を断る理由は、私にはなかった。』

これこれ、砂村さんの文章。

他人への苦しみや憎しみを超え、自分を諦めている感じ。

『コーヒーの囚人』を拝読しファンになって以来、読めば読むほどに追いかけたくなる作家さんだなと改めて。


訪問先のギャル、
彼氏の幼なじみ、
モラハラ気質の夫、
自分を大切にしない両親―

遠慮がなく、逃げ道を与えてくれない相手を前に、流され、葛藤する姿は、どの登場人物に対しても、ひりひりと共感するばかり。


綺麗事ばかりではない世の中だけれど。

それでも少しの決意と行動があれば、未来は想像していたよりも良いものになっていくんじゃないかな、と温かいてのひらを背中に添えてくれるような作品ばかりでした。


紋佳🐻

読書