『きのうのオレンジ』
「弱音を吐かない人は、いつだってひとりで闘っている」
がん宣告を受けた「彼」と、彼を支える「家族」の物語。
心揺さぶられる感動長編。
入っていたのは、十五歳の頃、恭平と山で遭難した時に履いていたオレンジ色の登山靴。
それを見た遼賀は思い出す。
あの日のおれは、生きるために吹雪の中を進んでいったのだ。
逃げ出したいなんて、一度たりとも思わなかった―。
がんを宣告された主人公の、考えや心境の変化が丁寧に描かれていました。
その時間軸に絡まるようにして登場する回想シーン。
子どものころに、兄弟で雪山で遭難したときの話。
死と隣合わせの中、生きるために行動し、困難をくぐり抜けた―その経験が、主人公を絶望の底からすくい上げていく。
過去の自分が未来の自分を支える様子に、感動しました。
『ロッカーの扉を開けると、前の患者の忘れ物らしき濃いグリーンのネクタイがハンガーに掛かったままになっていた。
自分の上着をハンガーに掛けながら、このネクタイの持ち主は病気を治して退院できたのだろうかと思う。』
患者目線で見た世界。
『完治の難しい患者にどこまで治療を続けるか。その線引きは医師でも難しい。
自分たち看護師も、もっと早く緩和病棟を勧めればよかったと悔やむことがこれまで何度もあり、結局はどうしていいかわからないのだった。』
医療従事者側の世界。
それから、がんを宣告された患者の家族から見た世界。
藤岡さんの作品は初めて読んだのですが、誠実で、素敵な文章ですね。
ご自身が医療従事者ならではの、説得力ある物語でした。
紋佳🐻
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