『男と女のキビ団子』
我ながらいい男を手にしたもの。
久美は思う。
格好の結婚相手を見つけ、今日はホテルに披露宴の下見。
宴会係の男性と打合わせを終えて一息ついた瞬間だった。
「この人は…」久美は愕然とした。
この宴会係には見憶えがある。
かつて中年男との不倫の日々、このホテルで淫らな時間を過ごしたものだ。
その時のフロントマンが彼では。
彼はすべてを知っている。
『夕刊を見ながら、箸を動かす夫からは、中年男の薄汚さ以外何も見えません。
こんな男のどこがよくて・・・と思った瞬間、私は不意に貧乏クジを引いたような気がしました。』
『考えてみると、妻というのはなんとつまらないものなのでしょうか。
おそらく若い女は夫たちのおいしいところをさんざんついばみ、不味くなるやいなやぽいと捨てるのです。
そしてその残骸を妻は拾って、繕って、そして最後までめんどうを見なくてはならないのです。』
「薄汚さ」、「ついばみ」、「残骸」・・・
厳しい言葉の端々から、若い女に夫を唆された妻の恨みが匂い立つようで。
読んでいていっそ清々しいのでした。
ハッピーエンドでもなければ、バッドエンドでもない、それどころか、完結を迎えない停滞した物語の数々。
現実もまた、そんなものなのだと思わせてくれる、メランコリーな世界観。好きです。
紋佳🐻
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