『優しい音楽』


駅のホームでいきなり声をかけられ、それがきっかけで恋人になったタケルと千波。

だが千波はタケルが自分の家族に会うことを頑なに拒む。

その理由を知ったタケルは深く衝撃を受けるが、ある決意を胸に抱く―表題作「優しい音楽」。

現実を受けとめながら、希望を見出して歩んでゆく人々の姿が、心に爽やかな感動を呼ぶ短編集。


ひさしぶりの瀬尾まいこさん。

池上冬樹さんが解説でも仰っているけれど、瀬尾さんの作品は冒頭3行がとにかく秀逸。

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」
春休みの最後の日、朝の食卓で父さんが言った。
(『幸福な食卓』)より

僕は捨て子だ。子どもはみんなそういうことを言いたがるものらしいけど、僕の場合は本当にそうだから深刻なのだ。
(デビュー作『卵の緒』より)

この短編集もその力が遺憾なく発揮されていて、はっとするような書き出しから始まる物語は、どこかちぐはくで、サプライズや違和感を伴う。

その引っかかりに導かれるように読み進めるうちに、あっという間に読み終えている、そんな感じ。

瀬尾さん、好きです。

それから、ひさしぶりに双葉文庫を手にし、好みの紙質に癒されました。


紋佳🐻

読書