『象と耳鳴り』


「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです」

退職判事・関根多佳雄が立ち寄った喫茶店。

上品な婦人が語り始めたのは少女時代に英国で遭遇した、象による奇怪な殺人事件だった・・・。

表題作をはじめ、子供たちの会話、一枚の写真、携帯電話など、なにげないテーマに潜む謎を、鮮やかな手さばきで解き明かすロジックの芳醇なる結晶。

幻惑と恍惚の本格推理コレクション!


この時代の恩田さんの作品は、新刊は書店で、過去作は古本屋さんで買い漁って、ほぼ読んでいるつもりでしたが、こちらは初読でした。


元判事の初老男性が主人公。

推理小説好きの彼の元へ、さまざまなアクシデント、挑戦が舞い込む短編集です。

恩田陸さんのデビュー作の主人公の父親だったという人物に、『もう少しつきあってみようかと思ったのが始まりだった』そう。

実際に存在する推理小説が何冊も登場するのですが、数々の名作に敬意を表した作品に仕上がっているなあと思いました。


主人公の息子(刑事)と娘(弁護士)が、4枚の写真から、その人物像を推理する、という『机上の論理』もとても好きでした。

どちらの推理も面白かった。

シャーロック・ホームズを読んでも、ホームズの推理しか聞けないけれど、複数人のばらばらな(それでいて筋の通った)推理に触れられるのは面白いですね。

オチも良かったです。


本格推理小説の短編集の趣きたっぷりの、まるで「翻訳推理小説」のような作品でした。


紋佳🐻

読書