『神様の暇つぶし』


夏の夜に出会った父より年上の男は私を見て「でかくなったなあ」と笑った。

女に刺された腕から血を流しながら。

―あのひとを知らなかった日々にはもう戻れない。


『泣きたくなったら食べればいい。
泣きながらでも飲み込めば、食べた分だけ確実に生きる力になる。
そう言ったのは父だっただろうか。あの人だっただろうか。
どちらにしても、私は愚直にそれを信じて生きている。』

食べることがだいすきで、まさに生きる力に変えている、千早さんらしい文章が、力強くて、人間臭くてとてもいい。


『焼けたばかりの肉厚のレバーに歯をたてる。
肉が柔らかくて甘い。
生ビールを追加する。
もわっとした臓物と血の匂いに食欲が凶暴に刺激される。』

こういう表現も、千早さんらしい。


どんなに深く愛し合っていても、所詮は自分の世界から抜け出せないし、その世界がぴったり重なり合うことはない・・・

その事実が丁寧に描かれた物語でした。


紋佳🐻

読書