『アルプス席の母』


秋山菜々子は、神奈川で看護師をしながら一人息子の航太郎を育てていた。

湘南のシニアリーグで活躍する航太郎には関東一円からスカウトが来ていたが、選び取ったのはとある大阪の新興校だった。

声のかからなかった甲子園常連校を倒すことを夢見て、息子とともに、菜々子もまた大阪に拠点を移すことを決意する。

不慣れな土地での暮らし、厳しい父母会の掟、激痩せしていく息子。

果たしてふたりの夢は叶うのか!?


補欠球児の青春を描いたデビュー作『ひゃくはち』から15年。

主人公は選手から母親に変わっても、描かれるのは生きることの屈託と大いなる人生賛歌!

かつて誰も読んだことのない著者渾身の高校野球小説が開幕する。


表紙を開いて、まず目に飛び込んでくる「そで」の部分。

『本当は
女の子のお母さんに
なりたかった―』

くぅーっ。

この仕掛け最高です。

読む前から刺さるって、どういうこと!?


でも、実際にそうなのだ。

たとえば結婚する前に思い描いた理想の母親像のように、格好良くは生きていない。

子どものことばかり不安になるし、おろおろするし、そういえば泣くのだって航太郎のことでばっかりだ。

そんな自分を否定したい気持ちはある。

もっと「自分は自分」「息子は息子」と突き放して生きる術はあるのだろうし、子どもたちの方がそうあることを望んでいるのもわかっている。

香澄の言葉を借りるなら、結局はそれだって、自分自身のためなのだ。

自分という人間がいつか悔いを残さないために、息子のことでジタバタする。

子どもの成長とともに、環境や心境が移りゆく母親のきもちを、こんなにも丁寧に描けるなんて・・・!と感動しました。(著者の早見さんは47歳男性)

母親のひとりとして、登場人物に感情移入しないわけがない。

これは、本屋大賞第2位なだけあります。


早見さんご自身が、桐蔭学園高等学校、野球部に所属されていたのですね。

野球には疎い自分が初めて、高校野球も面白いかも・・・と、思わされた作品となりました。


紋佳🐻

読書