『月と散文』


センチメンタルが生み出す爆発力、ナイーブがもたらす激情。

いろんなものが失くなってしまった日常だけれど、窓の外の夜空には月は出ていて、書き掛けの散文だけは確かにあった―


虚構と現実の境界があいまいなまま進んでいく感覚や、仮定の話がどこまでも連なっていくあの独特の語り口。

これまで多くの芸人さんのエッセイを読んできたつもりですが、又吉直樹さんの文章は、やはり他とは違う、唯一無二の世界でした。


『「純文学なんてわざと難しい言い回しを使って、それっぽく書いているだけ。箇条書きで出来事だけ書いたらニページで終わる」みたいなことを言いたがる人をたまに見掛けるが、自分に必要ないからといって、誰かの大切なものをそんな風に言わなくていいのに。どこかの独裁者が「人間は生まれる。優香な人材は役に立つ。粗悪な不良は役に立たない。どっちみち人間は死ぬ」と人間の一生を箇条書きで記し、無差別で人を殺そうとしたなら、全力で我々は抵抗しなければならないし、それぞれの人生に重要な価値があるのだ、とカを合わせて伝えなければならないのに。』

まるで純文学。

力が緩んだ瞬間に、活字の上で目がつるつる滑ってしまうから、ゆっくりじっくり読み進めました。


自分がいかに普段から何も考えずに生きているのかを思い知らされる、又吉さんの自己分析。

悩まないことが幸せなのか、悩んでこそ自分と向き合い思い残すことのない人生が送れるのか。

如何なる時も動じず冷静でいようとする又吉直樹さんの胆力を、これでもかと浴びることのできる一冊でした。


紋佳🐻

読書