『春にして君を離れ』


優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。

が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる。

女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。


鴻上尚史さんの『恋愛王』で
『もし、あなたが元気なら一読をおススメします。元気なら耐えられるでしょう。』
と紹介されていて手に取りました。


アガサ・クリスティさんが、メアリ・ウエストマコット名義で出版した6作品のうちのひとつ。

こちらの名義での出版は、「ロマンス小説」などと分類されるそうですが、中身はさすが、ミステリと言って差し障りのないもの。

ロマンチック・サスペンス・・・うん、なるほど。


「自己肯定感の低い若者が多い」
なんて巷では問題になっていたりいなかったりしますが、こちらは自己肯定感が強いあまり周りの見えない「独りよがり」なご婦人が主人公。

乗り継ぎが上手くいかず数日間砂漠の真ん中にその身を置き去りにされることによって、過去の出来事、家族から言われた言葉・・・
ひとつひとつの点が繋がってゆき、夫の浮気、家族の真の姿、自分自身の真の姿が、狂気的な思考と共に暴かれていきます。

その真実を受け入れた上で、「これまで通りに振る舞うか」、「心入れ替え別人として振る舞うか」のどちらか選ぶことを迫られて・・・
ラストはなんとも後味の悪い終わり方でした。

イヤミスってアガサ・クリスティさんも書かれていたのですね。
ご馳走さまです(←イヤミス大好き)


解説の栗本薫さんがこの物語に対して、はじめて読んだ時の印象と、いまの印象を綴られているのですが、
「結局はご婦人ばかりじゃなくて旦那も旦那よね」っていう感想が、なるほど今どきだな、と思いました。

奥さんに好き勝手言わせて、やらせて、自分は笑顔でイエスと言ってきたくせに、どうして被害者ぶるかなあってことですね。
うん、一理ある。
結局、この夫婦は、お互いがお互いの方を向いてなかったってこと。


いやでもね、ちょっと自分がこんな妻、母になりそうで(自分は最善のものを家族に提供してきた、ああなんて幸せな人生だったのかしら!なんて人生の終盤に思っていそうで)、

私自身にとっても、苦く切ないバイブルとして、手放してはいけない気がしたのでした。


紋佳🐻

読書