『父の詫び状』
宴会帰りの父の赤い顔、母に威張り散らす父の高声、朝の食卓で父が広げた新聞・・・
だれの胸の中にもある父のいる懐かしい家庭の息遣いをユーモアを交じえて見事に描き出し、“真打ち”と絶賛されたエッセイの最高傑作。
また、生活人の昭和史としても評価が高い。
航空機事故で急逝した著者の第一エッセイ集。
向田邦子さんの凛とした文章、柔らかで豊かな表現が、とても好き。
「口許は声を立てて笑っているのに、お天気雨のように涙がとまらなかった。」とか、
「歩行者天国というのが苦手である。天下晴れて車道を歩けるというのに歩道を歩くのは依怙地な気がするし、かといって車道を歩くと、どうにも落ち着きがよくない。」とか、
おやつを「お八つ」、と記されるところとか。
脚本ばかり書かれてきた向田邦子さんが初めて「まとまった文章」を書かれたというのが、この『父の詫び状』ということなのですが、
解説で沢木耕太郎さんが仰っていた、
『(略)彼女がテレビドラマを永く書きつづけてきたという「経験」が、ことのほか大きな意味を持っていたらしいことに気づかざるをえない。視覚的であること、とりわけ細部が正確で挿話的であるというところに、テレビドラマのシーンの作り方と共通する工夫が感じられ、また挿話から挿話への大胆な飛躍には、テレビドラマにおける場面転換の仕方の応用が見て取れる。』
という説明にとても納得。
挿話的に話が飛ぶのに、本筋を全く見失わずに読める、さすが向田邦子さんでした。
紋佳🐻
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