『一度だけ』


夫の浮気が原因で離婚し、介護ヘルパーになった弥生は、派遣社員の妹・ひな子と暮らしている。

ある日、叔母がブラジル旅行に妹を誘う。

なぜ自分ではなく、妹なのか。

悶々とする弥生は、二人が旅行中の一週間、新しいことをすると決める。

ぶつかってきた女性を尾行したり、バーでひとりウイスキーを嗜んだり・・・。

まだ見ぬ自分に出会うための物語。


旅のエッセイをたくさん出されている益田ミリさんの、こちらは旅が登場する小説。

普段、ミリさんのエッセイばかり読んでいるので、登場人物の多い作品はとても新鮮でした。


その観察力や、自己分析力は、小説の中でも健在。

言葉では説明しきれない、人間同士がかかわり合うことで生まれるもやもやとしたものも、共感させられてしまうほどの説得力がありました。


中盤から終盤に向かっては、不穏な空気が漂うシーンや、人生のままならなさに心が痛くなるようなシーンもあり・・・

(ミリさんって、こんな作品も書かれるのね、、!)

と、ドキドキ、はらはら。


ところが、小説の中に登場したシーンを、漫画で書き下ろしたものが巻末に付いていたのですが、それを読むと、「いつも通りのミリさん」の作品だったのです。

衝撃でした。

ミリさんの漫画を活字だけにしたら、こんなにも人間臭く、アクが強いだなんて、想像もしませんでした。

唯一無二のあの絵柄が、いかに、ミリさんが描きうるドロドロとしたものを濾しているのか、思い知りました。


微笑ましいファンタジー映画だと思っていたら、スプラッター映画だった・・・

それくらいの衝撃を受けた作品でした。

私はミリさんの、何を知ったつもりだったのだろう(ちょっと凹んでいる)。


紋佳🐻

読書