『不機嫌な英語たち』


河合隼雄物語賞、日本エッセイスト・クラブ賞
(『親愛なるレニ―』にて)受賞後、著者初の半自伝的「私小説」。

些細な日常が、波乱万丈。

カリフォルニア・ニューイングランド・ハワイ・東京を飛び交う「ちょっといじわる」だった少女にとっての「真実」とは。

透明な視線と卓越した描写で描かれるちょっとした「クラッシュ」たち。


大人になりハワイ大学の教授をしている主人公の話と、カリフォルニアへある日突然引っ越すことになった、英語が全く分からない少女時代の話が入り混じった構成にも関わらず、全く読みずらさはありませんでした。

むしろ主人公の生い立ちと現在を同時に追いかけることができるテンポ感の良さが爽快でした。


『―私たちは、クリスマスをニューヨークで過ごしにきた小金持ちの日本人観光客、相手はクリスマス休暇も駐車場で働く黒人だった。
そのことの意味を坂上さんはわかっているだろうか。
あれ以上、あの場でやりとりを続けていたら、バッテリーの弁償云々の問題ではない事態に発展していたことを、坂上さんはわかっているだろうか。
わけのわからない文句をつける日本人男性と、さっさと私たちを出て行かせようとする黒人男性のあいだで、なぜ私が矢面に立たされなければいけないのだろうか。
そもそも、私が男だったら、坂上さんはあんな指示を出しただろうか。
そして、相手が黒人でなく白人だったら、あんな無茶なことを主張しただろうか―』

人種や性別、宗教といったアイデンティティに関わる話から、そもそもの個人の性格の違いによる摩擦から生まれる事件などなど。

屈辱・憤怒・失意・・・あらゆる感情に共感しつつ、人と人との交流の中で、言語という壁以上に感じる、安易に踏み込めない・越えられないものの存在が圧倒的すぎて、自分という人間についても考えさせられるエピソードばかりでした。


エッセイではなくて、私小説ですと謳っているのも良いですね。

そこに創作の余地・可能性を感じるというのが、普段エッセイばかり読んでいる自分にとって新鮮な読書体験でした。


チャプターごとに現れる英語で綴られたパートは、「文字が小さすぎる・・・改行した時に行を見失う・・・!」とあたふたしながらもなんとか拝読。

こんなに長い英文、学生時代ぶりに読んだのでは。

異文化交流系が好きな方におすすめです。
(かくいう私もオススメとしてお借りしたのでした。いつもありがとうございます!)


紋佳🐻

読書